睡眠不足は眠気、疲労、作業精度の低下などを引き起こすだけでなく、何日も寝ていない状態が続くと最終的に死に至ります。そんな睡眠不足が死につながるメカニズムを、ハーバード大学医学部の研究チームが解き明かしました。睡眠は生き物にとって重要な要素ですが、「生き物はなぜ眠るのか?」という謎はいまだ解明されていない状態です。しかし、1989年に発表された実験では、強制的に不眠状態を維持されたラットが全て死に至ったことから、「生物は眠らない状態が続くと死ぬ」とされてきました。
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そんな睡眠と死の関係について解き明かしたのがハーバード大学神経生物学科の研究チーム。研究チームは、ニューロンが熱に敏感になるように遺伝子改変したミバエを暖かい部屋で飼育することで、「ミバエを眠れないようにする」という実験を行いました。この実験で、ミバエの不眠状態が10日以上続くと死亡率が急激に上昇し、通常ならば40日間の寿命を持つミバエが20日で100%死ぬということが判明。ミバエにおいても「眠らない状態が続くと死ぬ」ことが確認されました。
研究チームが不眠状態が続いたミバエの体内をくまなく調べたところ、腸内で活性酸素種と呼ばれる酸素分子に対する反応性が高い分子群が蓄積されることを発見しました。以下が実験に使われた「ミバエの腸」の画像です。左から順に不眠1日目、不眠7日目、不眠10日目の腸と並べられており、活性酸素種が蓄積している部分には色が付けられています。不眠状態が続くと活性酸素種の濃度が腸内で高くなるということを、視覚的に示しています。
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実験では、不眠時に活性酸素種が蓄積される部位が腸に限られることも判明しました。以下の画像を見ると、ミバエのBrain(脳)、Muscle(筋肉)、Fat body(脂肪体)、Testes(精巣)では通常時(画像上段)と不眠時(画像下段)で変化はなく、不眠状態が続いても活性酸素種が蓄積されないということが示されています。
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この現象がミバエ以外の生物でも発生するのかを調べるため、研究チームがマウスを使って追加実験を行ったところ、5日間不眠状態が続いたマウスの小腸と大腸では活性酸素種が蓄積されていることが確認されました。このことから、異なる生物でも睡眠不足によって活性酸素種が腸内に蓄積されることは変わらないと研究チームは説明しています。
さらに研究チームは、不眠状態によって生成される腸内の活性酸素種が死の原因であることを特定するため、「ミバエに抗酸化化合物を含む食事を与えて腸内の活性酸素種を中和する」という実験を行いました。実験の結果、抗酸化化合物を投与されたミバエは不眠が続いているにも関わらず通常通りの活動を続け、通常の個体と変わらない寿命を示したとのこと。加えて、腸内で抗酸化酵素を過剰産生するという遺伝子操作が行われたミバエは不眠状態が続いても通常の個体と同等の寿命を示したことから、研究チームは「腸内の活性酸素種が不眠による死の中心的な役割を果たしている」と結論付けました。
ミバエに抗酸化化合物を投与し続けるという実験に関して、今回の研究を指揮したハーバード大学神経生物学科のDragana Rogulja助教授は、「チームの全員が毎朝信じられない思いでミバエを見ていました。腸内の活性酸素種を中和すれば、不眠のハエも生き続けたんです」とコメント。研究チームのYosef Kaplan Dor氏は、「睡眠不足がなぜ腸内での活性酸素種の蓄積を引き起こすのか、活性酸素種の蓄積がなぜ死につながるのかはわかってはいません」と述べて、腸内の活性酸素種の蓄積とその後に続く死をつなげる生物学的経路の解明に取り組む予定だと語りました。
https://gigazine.net/news/20200608-sleep-loss-death-reactive-oxygen/
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Source: 稼げるまとめ速報